となりのしばふ

日々の記録と内省と

雑記220306

f:id:loupfnc4:20220307121018j:plain2月の終わりから気候も安定し始め、気温が5℃以上になる日も増えてきて、順調に春に向かって行っている印象の今日この頃。冬季は閑散期であるはずなのに急に仕事がバタバタし始め、連日残業なんかしている。

この週末は気分転換にちょっと遠出してきた。一番の目的はある美術館で開催中の企画展で、一枚の絵画を見ることだった。それが富岡惣一郎の「木」という油絵。白で塗られたキャンバスの真ん中に、ポツンと一本の木が描かれているだけの絵なのだけど、この木は遮るもののない野っ原に立っているのだなあと情景が一目でわかる不思議な絵なのです。そして周りは激しい吹雪でホワイトアウトしているように見えるのに、静かで物悲しく、でもどこか穏やかにも見える。キャンバスのほとんどを占める白の色は、場所によって黄色と灰色、茶色も、様々な色が複雑に混じっていると思うのだけど、何色かと言われるとやっぱり白というしかない。雪って確かにこういう風に白の中に様々な色を含んでいる。土の茶色とか、分厚い雲に陰るときの灰色とか、陽光を反射した時の黄色、橙色とか。雪が積もらない地域で育った人は、この絵を見たらどういう情景を思い浮かべて何を感じ取るのかな、とかいろいろなことを考えながら滞在時間の半分くらいはこの絵の前にいた。実際に見ることができて本当に良かった。小さな美術館で展示もそう頻繁には変わらないからか来館者も少なく(というかおそらく私以外にいなかった)、他の絵もじっくり鑑賞出来てとても良い時間でした。

美術館は館内が撮影禁止だったので、写真はふらりと立ち寄った水族館のマゼランペンギン。美術館に着いたころには小雨が当たる程度だった天気はこの頃には激しい暴風雨になっていて、そんな中でもペンギンたちはプカプカ浮かんでペチペチ歩いて鋭い眼光でご飯を所望していた。かわいい姿をしているもののやはり野生で生きている生き物は強い。他にも、人間を驚かせるのが楽しくて尾びれで水槽のガラスをバンバン叩くイルカや、惰性でぐるぐる回り続けるクラゲ、明らかに容量不足の水槽でとぐろを巻くウツボなど、クセの強い海の生物を思い出しながら、道の駅で名物のカニを食べて帰ってきた。ほどよいガス抜きになりました。これから雪が溶けたら、山登りもしたいな。

 

村上春樹ノルウェイの森」読了。高校生の頃に一度読んだのだけど、内容をさっぱり覚えていなかったため十云年ぶりに再読。読み進めるうちに、そういえば「大学生というのはこんなに大人で、こんなに様々な人と交流をもって、こんなに性に奔放で、こんなに思い悩むのか…」と驚いた記憶があるなあと懐かしく思い出した。全体を通して喪失、あるいは欠陥を描いた物語。物語、というか主人公ワタナベ君の備忘録のようにも思える。キヅキ、直子、突撃隊、永沢さん、初美さんにレイコさん、ワタナベ君が様々な人とともに過ごした日々は愉快で優しいものも多いのに、過ぎ去ってしまえばそのひとつひとつが体に穴をあけていくように感じられる。そういう人を引き寄せてしまう性分なのか、本文で語られる数年だけでもワタナベ君は新たな喪失をいくつも背負うわけなのだけど、冒頭シーンを見るに彼はそれに引っ張られることなく40近くまで生きている。終盤で直子の死に底なしの悲しみと憤りを感じながらも、見知らぬ土地の漁師にもらった寿司を食べ、ちゃっかり恵んでもらったお金で東京に戻るエピソードを含め、永沢さんが「俺とワタナベは似たところがある」と言ったのがわかるような気がする。以前、精神科の先生に「あなた気をつけなさいよ。普通の人よりストッパーがゆるいんだから。恋人とか家族とか、子どもとか大切なひとが出来ても関係ないよ。選択肢が常に提示されている状態はこれから一生続くから。本当に気をつけなさいよ」と言われたことがある。直子は、ワタナベ君がいようがいまいが、そういうことだったのだと思う。

bookclub.kodansha.co.jp