となりのしばふ

日々の記録と内省と

雑記220812

原田マハ「楽園のカンヴァス」読了。山本周五郎賞、R-40本屋さん大賞、TBS系「王様のブランチ」BOOKアワードなどを受賞してベストセラーになった傑作。美術史系は難しそうだな…という先入観で手が出なかった積読をようやく消化。

ニューヨーク近代美術館でキュレーターとして働くティム・ブラウンは、ルソー研究者である早川織絵とともにスイスの大富豪バイラー氏に招かれ彼の豪邸で一枚の絵画と対峙する。それはティムの働く美術館に所蔵されているアンリ・ルソー作『夢』によく似た作品『夢をみた』だった。バイラー氏は真贋を正しく判定したものにこの作品を譲るという。手掛かりは一冊の古書。『夢をみた』はルソーの真作なのか。真贋を判定するのはティムか織絵か。ピカソとルソー、天才画家たちが生きた時代・カンヴァスに込めた情熱とは。そしてバイラー氏が判定を望んだ真意とは。…など様々な思惑、過去と現代が交錯するアートミステリー。というあらすじ通りの内容なんだけど、富や名声を得ようと一枚の絵を欲する輩があっちにもこっちにもいて、概ね純粋な(概ね、というからには双方に純粋でない思惑もあるということです)研究者であるティムと織絵をついつい応援してしまう。本作は古書に書かれた1900年代と現代の二重構造が同時並行で進んでいく。展開もスムーズで読みやすく、7日間という限られた真贋判定期間の1日目から引き込まれた。終盤に明かされる人間関係もそれまでの展開があることで「そういうことか!」と驚かされ、絵の行方にも納得。原田マハさんの美術小説、これは絵画の知識がなくても読める!そして面白い!美術系の大学にいたにも関わらず絵画に関しての知識は人並みほどしか持っておらず、ルソーの作品について『飢えたライオン』がかろうじて出てくるか否か……という程度で物語の中心となる『夢』は恥ずかしながら本作の表紙で初めて知った私でも引き込まれたので、敬遠している人は気軽に読んでみてほしい一冊。熱帯の風景を鮮やかな色調で表現した絵が多い印象だったルソー、読了後にあらためて調べてみるとパリ郊外の風景や肖像画なんかも数多く残していたのね。話の面白さはもちろん、物語を読みながら絵画への造詣も深まる不思議な読書体験でした。

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